「プロダクトマネージャーのしごと」を読んだので、メモをかねて各章の感想を書きます。
全体を通しての感想
原本は Product Management in Practice, 2nd Edition で本書は日本語訳となります。
本書が出版された時にプロダクトマネージャーの実践的な本が出たと話題になりました。
プロダクトマネージャーの仕事の実態を包み欠かさず明かし、どうプロダクトマネージャーとしての成功率を高めていくかを紹介していいます。
いわゆるベストプラクティスをまとめた内容ではなく、プロダクトマネージャーとして日々の業務にどう向き合っていけば良いかの指針を示してくれる内容です。
あまりに現実的な内容で、自分としては胃が痛くなるような話が多かったです。
機械翻訳っぽさがなく、丁寧に訳された日本語訳となっていて読みやすいです。
文章がウィットに富んでいる言い回しが多く、文体も堅苦しくないため一気に読めてしまいました。
各章の内容
1. プロダクトマネジメントの実践
1.1 プロダクトマネジメントとは? 1.2 プロダクトマネジメントではないこと 1.3 優れたプロダクトマネージャーのプロフィール 1.4 悪いプロダクトマネージャーのプロフィール 1.5 プロダクトマネージャーとして週に60時間も働いてはいけない 1.6 プログラムマネージャーとは?プロダクトオーナーとは? 1.7 まとめ:曖昧さの海を航海する 1.8 チェックリスト
プロダクトマネージャーは一体何をやる人なのか説明しています。
プロダクトマネジメントについて定義するものではなく(というか筆者はプロダクトマネジメントは定義できるものではないと指摘してます)、プロダクトマネージャーと呼ばれてる人たちに共通してる内容を整理しています。
悪いプロダクトマネージャーの紹介に、プロダクト殉教者と呼ばれる言葉が出てきます。冗談っぽく話してますが、事実こういった状況に陥るプロダクトマネージャーがいかに多いか書かれていました。
最も印象的だったのが、プロアクトマネージャーがもたらす実際の価値は簡単に数値化できるものではなく、他職種に比べプロダクマネージャーは実際に何をやったのか分からないという内容でした。
2. プロダクトマネジメントのCOREスキル
2.1 ハイブリッドモデル:UX/テクノロジー/ビジネス 2.2 プロダクトマネジメントのCOREスキル:コミュニケーション、組織化、リサーチ、実行 2.2.1 コミュニケーション 2.2.2 組織化 2.2.3 リサーチ 2.2.4 実行 2.3 でも……ハードスキルについてはどうなのか? 2.4 まとめ:プロダクトマネジメントに対する会話を変える 2.5 チェックリスト
プロダクトマネジメントに必要なスキルを4つ挙げています
- Communicate: ステークホルダーとコミュニケーションする
- Organize: 持続的に成功するチームを組織化する
- Research: プロダクトのユーザーのニーズとゴールをリサーチする
- Execute: プロダクトチームがゴールに到達するための日々のタスクを実行する
ソフトスキルを中心に話した後、ハードスキルは必要なのか?について書かれています。
一般的にハードスキルに基づいてプロダクトマネージャーを採用する組織が多いが、プロダクトマネージャーに期待される日々の仕事とほとんど関係ないと指摘しています。
3. 好奇心をあらわにする
3.1 心からの興味を持つ 3.2 しなやかマインドセットを育む 3.3 間違いという贈り物 3.4 守りの姿勢と距離を置く 3.5 「なぜ」を使わずに理由を尋ねる 3.6 好奇心を広げる 3.7 まとめ:好奇心がカギ 3.8 チェックリスト
プロダクトマネージャーとしてのチームメンバーとの関わり方や、マインドについて書かれています。
自分が理解できる領域の職種の人とだけ関わるのではなく、様々な専門分野の人と仕事が出来る環境を作ることの重要性を説いています。
人とのつながりの中で仕事をするため、人間性の良さは重要だなと改めて実感しました。
4. 過剰コミュニケーションの技術
4.1 あたりまえを問う 4.2 遠回しではなく、単刀直入に 4.3 すべてがあなたのせいではない。アウトカムは意図より重要 4.4 プロダクトマネジメントでいちばん危険な言葉:「よさそう」 4.5 「よさそう」からの脱却戦術:Disagree&Commit 4.6 いろいろなコミュニケーションスタイルを意識する 4.7 コミュニケーションはあなたの仕事。仕事をすることで謝罪してはいけない 4.8 過剰コミュニケーションの実践:プロダクトマネージャーの3つのよくあるコミュニケーションシナリオ 4.8.1 シナリオ1 4.8.2 シナリオ2 4.8.3 シナリオ3 4.9 まとめ:迷ったらコミュニケーション 4.10 チェックリスト
コミュニケーション不足から、経営陣が期待していたものと、現場のエンジニアが作り上げたプロダクトが異なるシチュエーションを取り上げて、プロダクトマネージャーのコミュニケーションの重要性を紹介しています。
コミュニケーションを曖昧にすることで起きうる悲劇のエピソードが散りばめられていて、過剰すぎるコミュニケーションの必要性を説いている章になります。
5. シニアステークホルダーと働く(ポーカーゲームをする)
5.1 「影響力」から情報へ 5.2 気に入らない答えでも答えは答え 5.3 「上司は馬鹿だ」、もしくは、おめでとう――あなたはチームを壊した 5.4 警告なしで驚かさない 5.5 社内政治の世界でユーザー中心主義を貫く 5.6 シニアステークホルダーも人間だ 5.7 実践ポーカーゲーム:シニアステークホルダーマネジメントの3つのよくあるシナリオ 5.7.1 シナリオ1 5.7.2 シナリオ2 5.7.3 シナリオ3 5.8 まとめ:これはあなたの仕事の一部であり、障害ではない 5.9 チェックリスト
プロダクトマネージャーは組織的権力があるステークホルダーとチームのメンバーとの間で働くことになります。
本章は社内政治にまつわる内容となっていて、プロダクトマネージャーとして避けては通れない調整の話が出てきます。
ステークホルダーとのやりとり例が3つ取り上げられていますが、どれもリアルな話で学びが大きかったです。
6. ユーザーに話しかける(あるいは「ポーカーって何?」)
6.1 ステークホルダーとユーザーは違う 6.2 そう、ユーザーと話す方法を学ばなければいけない 6.3 ペルソナ・ノン・グラータ 6.4 プロダクトとリサーチ:友だちのふりをした敵から、永遠の大親友へ 6.5 まとめ:いや、真剣な話、ユーザーとの会話を学ぶべき 6.6 チェックリスト
プロダクトを良いものにしていくには、ユーザーの声を聞くことが重要であると指摘しています。
プロダクトマネージャーとしてユーザーの真の課題を知るための方法が書かれています。
7. 「ベストプラクティス」のワーストなところ
7.1 誇張を鵜呑みにしない 7.2 現実と恋に落ちる 7.3 フレームワークやモデルは有用なフィクション 7.4 あなたはここにいる 7.5 何のために問題解決しているのか? 7.6 でも、前のチームではうまくいったのに 7.7 「プロセス嫌い」と働く 7.8 ベストプラクティスのベストなところ 7.9 まとめ:出発点であって保証ではない 7.10 チェックリスト
プロダクトマネジメントのベストプラクティスに固執することの危険性を取り上げています。
プロダクトマネジメントの本当を細かく知りたい場合、業界トップ企業のケーススタディではなく、自分の組織の身近なマネージャーに聞くことを推奨しています。
8. アジャイルについての素晴らしくも残念な真実
8.1 アジャイルにまつわる3つの迷信を論破する 8.2 アジャイルマニフェストに目を向ける 8.3 マニフェストからモンスターへ 8.4 アリスター・コーバーンの「アジャイルのこころ」を再発見する 8.5 アジャイルと「常識の我が物化」 8.6 アジャイルを「正しく」やって悪化する場合 8.7 アジャイルを「正しく」やって改善する場合 8.8 二度としたくないアジャイルについての会話7選 8.9 まとめ:曖昧さはここにも 8.10 チェックリスト
著者のMatt LeMay氏は本書の他にアジャイルについての本も出版しています。(みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた)
本書では教科書通りのアジャイルの実践にこだわることで、チームが方向性を見失う危険性を指摘しています。
9. ドキュメントは無限に時間を消費する(そう、ロードマップもドキュメント)
9.1 「プロダクトマネージャーがロードマップの持ち主だ!」 9.2 問題はロードマップではなく、それをどう使うか 9.3 ガントチャート上は欲しいものが必ず手に入る 9.4 プロダクトの仕様書はプロダクトではない 9.5 最高のドキュメントは不完全 9.6 最初のドラフトは1ページで、作るのに1時間以上かけない 9.7 テンプレートがある場合 9.8 商用ロードマップツールとナレッジマネジメントツールの簡単なメモ 9.9 まとめ:メニューは食事ではない 9.10 チェックリスト
プロダクトの戦略ロードマップを完璧なドキュメントにまとめたくある衝動を抑えた方が良いと述べています。
ロードマップは約束ではなく、戦略的なコミュニケーション用のドキュメントとしています。
不完全なドキュメントの方がチームメンバーとの議論を進められ、完全なドキュメントを作ることより価値があると指摘しています。
ガントチャートを利用するとチームがアウトプットよりアウトカムを優先する状況を取り上げていました。ガントチャートが導入される妥当な理由としてステークホルダーがスケジュールを正確に知りたいケースががあり、不確実なことや変わりそうなことを率直に伝える必要性を述べています。
10. ビジョン、ミッション、達成目標、戦略を始めたとしたイケてる言葉たち
10.1 アウトカムとアウトプットのシーソー 10.2 SMARTなゴール、CLEARなゴール、OKRなどなど 10.3 優れた戦略と実行は不可分だ 10.4 優れた戦略はシンプルで明快だ 10.5 わからないなら例を求めよう 10.6 まとめ:シンプルに保ち、役立たせよう 10.7 チェックリスト
プロダクトマネジメントにまつわる大袈裟でイケてる言葉の多くは、2つの質問に集約されると指摘しています。
- 何を達成しようとしているのか
- どうやって達成するつもりか
現場のメンバーからのフィードバックを得ずに作った「世界一の包括的戦略プレゼンテーション資料」が、まとまりのない、ビジネス用語を寄せ集めた委員会謹製の、ややこしい図表や希望的観測だらけの代物と切り捨てる話が個人的にお気に入りです。
11. 「データ、舵を取れ!」
11.1 「データ」という禁句をめぐるトラブル 11.2 意思決定から始め、それからデータを見つける 11.3 重要な指標に集中する 11.4 明確な期待を定めるためにサバイバル指標を利用する 11.5 実験とその不満 11.6 「説明責任」から行動へ 11.7 まとめ:近道なんてない! 11.8 チェックリスト
プロダクトマネージャが日々の業務でデータとどう付き合っていくべきか書かれています。
意思決定のために十分なデータがないことを嘆くプロダクトマネージャーの例が取り上げられています。したいと思っている意思決定から始めて、「あればなおよい」ものとしてデータを扱うことが書かれています。
データドリブンという言葉に踊らされて、ユーザー課題の解決から遠ざかるケースは容易に起きるなと思います。
12. 優先順位づけ: すべてのよりどころ
12.1 層になったケーキをひと口食べる 12.2 どの意思決定もトレードオフ 12.3 体験全体に留意する 12.4 うわべだけの魅力ではなく本質の理解へ 12.5 でもこれは緊急なんです! 12.6 優先順位づけの実際:項目は同じでも、ゴールと戦略に応じて結果は変わる 12.7 まとめ:志は大きく、スタートは小さく 12.8 チェックリスト
プロダクトマネージャーとしての仕事の大部分は、何をどのようにいつ作るか決めることと述べられています。
大きな計画や意思決定を分割して、フィードバックをもらいながら微調整をしていくことが必要とされています。
13. おうちでやってみよう: リモートワークの試練と困難
13.1 遠くから信頼を築く 13.2 シンプルなコミュニケーションアグリーメントが意味のある信頼を築く 13.3 同期コミュニケーションと非同期コミュニケーション 13.4 分散チームのための同期コミュニケーション:時間と空間を企画する 13.5 分散チームのための非同期コミュニケーション:具体的な期待を設定する 13.6 「同期サンドイッチ」を作る 13.7 非公式なコミュニケーションのためのスペースを作り、それを守る 13.8 ハイブリッドな時代:対面とリモートのバランスを取る 13.9 まとめ:あなたのコミュニケーション能力の強化トレーニング 13.10 チェックリスト
時流に合わせたテーマでリモートワークの中でプロダクトマネージャーとして働く難しさを取り上げてる章です。
非同期メッセージで送信する前に確認するチェックリストが、自分は刺さりました
- メールを読んだ受信者は、10秒以内に、取ってほしいアクションがわかるか?
- 期待する結果と納期は明記してあるか?
- 複数の受信者に送る場合は、それぞれの受信者への依頼事項は明確か?
- フィードバックを求める場合は、どんな種類のフィードバックを求めているのか、フィードバックを求める理由を明確に示したか?
- 一般的なフォローアップやチェックの場合は、どんなタイプの反応・アクションが欲しいかを明確にしているか?
同期コミュニケーションと非同期コミュニケーションをうまく使いこなすための実践方法があり、おすすめの章です。
14. プロダクトマネージャーのなかのマネージャー(プロダクトリーダーシップ編)
14.1 出世する 14.2 びっくり!あなたがしていることはすべて間違い 14.3 自分自身に課す基準は自分がチームに課す基準 14.4 自律性の限界 14.5 明確なゴール、明確なガードレール、小さなフィードバックループ 14.6 自分自身を客体化する 14.7 プロダクトリーダーシップの実践 14.7.1 シナリオ1 14.7.2 シナリオ2 14.7.3 シナリオ3 14.8 まとめ:最高の自分へ踏み出す 14.9 チェックリスト
プロダクトマネージャーから上の役職に就いた場合の内容になっています。
基本的には前章までのプロダクトマネージャーについて指摘されていた内容と通ずる内容となっています。
15. 良いときと悪いとき
15.1 自動操縦の組織の心地よい静寂 15.2 良いときは(必ずしも)簡単なときではない 15.3 世界の重荷を背負う 15.4 世界最高の会社で働いていることを想像する 15.5 まとめ:大変な仕事だがその価値はある 15.6 チェックリスト
COREスキルが実践され、プロダクトマネージャーとしてうまく行ってる時が、必ずしも物事が簡単に運んでいる時ではないと指摘しています。
新しい課題を積極的に探し、率直な気持ちで、好奇心を持ち、先入観なく取り組んでいる時がプロダクトマネジメントとしてうまく行ってる時と述べています。
世界の重荷を背負い込もうとする人にとって、プロダクトマネジメントはハマりすぎる仕事と注意しています。
16. どんなことでも
本書の総括的な立ち位置の章です。
プロダクトマネージャーの仕事は、プロダクトのためになるならどんなことでも行うというのが本書のスタンスだったので、それをおさらいしています。